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件名:「台湾の声」【台湾紀行】恒春卑南古道(阿朗伊古道)−3

【台湾紀行】恒春卑南古道(阿朗伊古道)−3

              西 豊穣

<恒春の三奇、三宝>

恒春には「恒春の三奇、三宝」という言葉があり、恒春半島の風土を代表さ
せたものです。まず、「三奇」とは「落山風」、「民謡」、「檳榔」の三つ
の特異な気候、風習を意味します。

毎年十月から翌年の四月に掛けては恒春半島は乾季の時期に当たりますが、
この間、この一帯は地形の影響で軽度の台風に似た強い風が始終吹いていま
す。これが「落山風」で、この期間にこの地を訪れる観光客は容易に体験出
来ます。

次に「民謡」ですが、一般には「思想起」という名の民謡を指すそうで、清
朝に依る恒春県設置、それに続く恒春城築城後、シナ大陸から渡来する人々
が増え、それらの人々によって謳われたと謂われます。台湾の民謡とはどん
なものか、「思想起」がどんな調べなのかは、以下の「全球華文網路教育中
心」のサイトに行けば聴けますので、興味のある方は訪れてみて下さい。
尚、テレサ・テンの台湾語の歌に「思想起」がありますが、この恒春民謡を
ベースにしたものです:

http://edu.ocac.gov.tw/culture/music/CHINESE/1/map6.htm

最後に、嘗て恒春では老若男女を問わず檳榔を噛む習慣があり、これが他の
地域の人々には奇異な印象を与えていたというのが「檳榔」の意味なのです
が、もともと台湾に於いて檳榔を噛む習慣は原住民族から伝わったものだと
いうのが私の理解で、嘗ては恒春に大檳榔街が形成されていたとは云え、今
現在檳榔は台湾全土で等しく嗜まれており、台湾の一大産業の観を呈してい
ます。


「三宝」とは「洋葱」、「瓊麻(サイザル麻)」、「港口茶」、つまり、玉
葱(たまねぎ)、麻、お茶です。この港口茶の代わりに西瓜(すいか)を三
宝に数えている例を日本語のサイトで見たことがありますが、台湾側のサイ
トはすべて港口茶で統一してあります。県道200号線を恒春から満州に向
かって走ると満州の街に入る手前で南下する200号甲線がありそこからが満
州郷港口でその地特産のお茶です。非常な苦味があるのが特徴だそうです
が、私自身は全くお茶の知識がありませんのでこの程度の説明に留めておき
ます。


玉葱の収穫期である二、三月(但し、早生系のものもあるので実際はもっと
早い時期から並ぶ)に墾丁国家公園を訪れたことのある方は、省道26号線沿
にずらりと並ぶ玉葱売店スタンドを目にしたことがあるはずです。玉葱は台
湾では「洋葱」の字が充てられているように元々台湾のものではありませ
ん。玉葱が最初に台湾に持ち込まれたのは日本時代、しかも台北だったので
すが、収穫期に雨が多い為大量栽培には失敗したようです。戦後も最初は日
本からの輸入に頼っていたのですが、1950年代の後半にアメリカから品種を
移入、1980年代の後半以降は恒春半島での生産量が全台湾の80%にも及ぶよ
うになったと云われています。良質の玉葱を産する条件の一つが収穫期前に
乾燥した気候に恵まれることで、前述の冬季の乾いた季節風である「落山
風」が大いに与っているというわけです。


「麻」とは何か?を詳しく書き連ねれば恐らく一冊の本が出来上がると思い
ます。このメルマガの読者にしても、改めて、麻とは何か?と問われ的確な
回答が出来る方は非常に少ないのではないかと想像します。繊維としての麻
の種類、その元となる植物の種類、加工方法、利用方法等々実に多岐にわた
るからです。ここでは、簡単な説明に留めておきます。即ち:「麻という言
葉はしばしば漠然と用いれられ、狭義では大麻(たいま)を指すが、広義で
は綿、カポックのような種子毛繊維以外の植物性の細長く強い繊維、又はそ
の繊維を採る植物を総称する。亜麻(あま)のような高級麻類を除いては、
主に包装用織物、索綱、魚網などの原料として持ちいれられている。」(平
凡社「国民百科事典」1961年初版、一部筆者改編)。では、括弧付きで補足
した「サイザル(麻)」とは、同じ百科事典の説明では「メキシコのユカタ
ン地方原産の彼岸花(ひがんばな)科の多年草。葉から繊維をとる。」とあ
り、日本では今では観葉植物である竜舌蘭のことです。つまり、恒春の三宝
の一つ、「瓊麻」とはメキシコ産竜舌蘭の繊維を利用した麻ということにな
ります。


<瓊麻工業歴史展示区>

墾丁国家公園管理処では「瓊麻工業歴史展示区」を観光客に提供していま
す。場所は、高雄方面から来ると省道26号線を原子力発電所入り口手前で右
折し暫く行くと、竜舌蘭の葉を模したロケット状のモニュメントが左手に見
えてきます。元々は大正2年(1913年)開場の「台湾繊維株式会社恒春麻
場」です。

明治35年(1901年)アメリカ領事を通じメキシコ産のサイザルを入手した総
督府殖産局では、まず台北農事試験場で試験栽培、次いで恒春熱帯植物殖育
場(現在の墾丁森林遊楽区)に移植、試験栽培の成功を受けて恒春麻場を設
置しました。

この旧台湾繊維株式会社の存在を初めて知ったのは片倉佳史氏の著書に於い
てですが、その著書の記述と写真から、私は勝手に捨て置かれ相当荒れ果て
た様をイメージし、果たして探し当てられるのか不安だったのですが、実際
は一級の工業古蹟公園として整備し直されていたのでとても驚きました。

まず、園内は様々な種類の竜舌蘭が実際栽培されています。戦後も同事業は
国民党政府に引き継がれたのですが、往時の機械が展示され加工方法が説明
されています。又、サイザル麻の利用方法もサンプルと共に展示されていま
す。日本時代の工場内の建築遺構も保存され、更に、構内の神社の鳥居も当
時のままの姿で残っています。なーんだ、この麻紐、昔は郵便小包等を縛る
のによく使った、そう云えば今は全部プラスチック製に替わったな...麻
紐を実際使った経験のある人は必ずそういう感想を漏らすと思います。正に
その通りで、戦後も往時には日本に向け盛んに輸出されていたのですが、プ
ラスチックが台頭するにつれ衰退、広く栽培されていた竜舌蘭の畑は、玉葱
に取って替わられたのです。国立公園の台湾海峡側の観光スポットに向かう
車で賑わう道中にありますのですぐに目に付くのにも拘わらず、訪れる人は
残念ながら少ないのですが、是非立ち寄って貰いたい場所です。


<大尖山>

墾丁国家公園の見所は、台湾のマイアミと呼ぶ人もあるくらいですから、何
と言っても青い海と海岸線に集中しています。但し、この点景だけが失われ
るとこの国立公園全体の景観ががらりと変わってしまうのではないかと思わ
れるのが、大尖山、墾丁国家公園のシンボル・マークにもなっている標高
318メートルの岩山です。

大尖山という名の山は台湾にも沢山ありますが、恐らく墾丁のものが一番よ
く知られていると思います。隆起した珊瑚礁によって形成されているという
説明も散見されますが、海底が隆起したのはその通りでも実際は泥岩の外来
岩塊(海底の地殻部分が隆起)で頂上を形成する岩峰部分とそれを支えてい
るように見える下部の岩塊は地質学的には別物だそうです。

この山とその周りの牧場の広がりは、海岸線が際立つこの国立公園内の内陸
側の極めて美しい景観の代表です。見る角度によりこの岩山の山容は大きく
変化するのも大きな魅力です。北西、或いは南東の方角から見ると細く尖っ
た山になり、墾丁国家公園のシンボル・マークはこれらの方向からの山容を
デザインしたものです。一方、北東、南西の方向からだと広い頂きを持つ山
になります。

いずれの方角からも、頂上を形成する各々の裸の岩峰はまるでナイフを突き
立てたような塩梅で、まるで取り付く島のないような印象を与えるので、普
通の人はとても登れるとは思いませんし、又そのような気すら起こりません
が、実はロッククライミングの心得が無くても高所恐怖症ではない限りこの
山は登れるのです。

少なくとも屏東県の観光案内サイトでは登れる山と紹介されています。が、
私の知る限り少なくとも過去六、七年は登山禁止の状態が続いています。以
前は盛んに登られていたので登山道が付いていますし、山中には古い案内板
が残っています。又、岩に取り付いたらほぼ垂直に登り続けなければなりま
せんので、その為のロープもきちんと確保されています。

最近行ってみたら、警察局の登山禁止の注意書きのプレートの横に新たに
「罰金3,000元」(約11,000円)のプレートが追加されていました。この山
に登るのに一万円の価値があるかと問われれば、私は大いにあると答えます
が、それは何人のグループで登るかに拠ると思います。十人のグループで登
り警察に見付かり合計十数万円支払うというのはさすがに経済的ではありま
せんから。

さて、意を決したにしても二つの障害があります。一つは登山口が判らない
こと、登山禁止ですから当然登山口の表示はありません。これは見当を付け
て入り込み、古い登山道に行き当たるよう暫く試行錯誤しなければなりませ
ん。

もう一つは、牛の糞です。大尖山の周囲は台湾で最も広大な牧場が広がり、
この牧場の緑の絨毯が墾丁国家公園の内陸部の景観の一部を支えています。
従って山に入るためにはどうしても牧場を横断しなければならないのです
が、牧場内は文字通り足の踏み場もない程糞だらけです。

警察の目を掠める為に未だ暗いうちに登りに掛かるというのも一つの方法で
すが、二番目の障害を克服するのはとても難しいということになります。頂
上からの文字通りの360度の眺望は眼前に遮るものが一切ありませんから、
筆舌に尽くし難い絶景ですが、頂上は刃を渡したような狭さになり両側が切
れ落ちていますから実際頂上を歩き回るのは相当な勇気が必要なことは事実
です。


<南仁湖と東源水上草原>

もう一つ、国立公園の内陸側に隠れた名所があります。満州郷にある南仁湖
です。満州の街を過ぎ県道200号線を10キロ程北上すると入り口がありま
す。

恒春半島には小さな湖沼、更にそれらが草原化した場所が幾つかあり、前者
の代表が南仁湖、後者の代表がこれは国立公園内ではありませんが、牡丹郷
内の199号線途中に東源水上草原があります。

東源草原は実際は草原になる前の段階の湿地帯で、県道傍にありアクセスが
便利、且つ四季毎に異なる花を楽しめますので、多くの観光客を集めていま
す。

一方、南仁湖の方は自然保護区になっており、一日四百人の入山制限がきち
んと確保されていますので、予め予約しなければ入れません。外国人でも墾
丁国家公園管理処のウェッブ・サイトから予約状況を確認しながら簡単に行
えます。

登山口から湖までの距離は約4キロで緩やかに登っていきますので、一般の
ハイカーでも苦になりません。自然保護区になる前は地元の方の田畑が散在
していたのですが、今は一家族だけが居住しているそうです。

一般のハイカーが立ち入りが許可されているのは歩道沿いだけなのですが、
コンクリートに拠る人工物の設置が最小限に抑えられており、しかもゴミが
殆ど無く非常に清潔に保たれています。

公園の保護管理の基本は入園制限から、の見本のようなものです。喧騒の墾
丁国家公園の中の良心が南仁湖なのです。

南仁湖は実際は湖、沼、湿地、草原のすべてを併せ持っており、湖が草原化
するまでの中間形態をすべて観察出来るようになっています。

天気が良い時に来れば、湖沼と周りの緑の山々が織り成す景観は実に素晴ら
しいですが、難点が一つ、登山道を抜け湖に着いた後は高い樹木が無い為、
直射日光に曝されることです。夏場にここを訪れる際は日射病の予防に十分
努める必要があることを付記しておきます。


(参考)恒春卑南古道−2、−3中の古蹟関連の紹介については以下の資料を
中心に参照しました。興味のある方は以下の墾丁国家公園管理処のサイト
(「生態保育」>「研究報告」>「自行研究報告」>「自36」)よりダウン
ロード出来ます:

「墾丁国家公園及近隣地区歴史古蹟現況調査」(林瓊瑤著:2002年12月)
http://www.ktnp.gov.tw/manager/file/raise/self_res_36.PDF

又、墾丁国家公園周辺の日本語に依る紹介は以下の時報文教基金会のサイト
が秀逸です。参考にして下さい:
http://www.chinatimes.org.tw/features/green-03/BOOK/03/3/064-083.pdf
(「緑動心林 森情無限:新森活運動三部曲」>「森林渡暇情報電子書」>
「日文版電子書」>「墾丁」>「墾丁国家森林公園」)



筆者註:これまでもそうでしたが、本投稿中にも現在の台湾の自動車道を紹
介するのに「省道」という表記を用いています。これは「台湾省」道の略
で、本来は「国道」とすべき所でしょうが、今でも交通部では変更していま
せんのでそのまま「省道」という表記を採用します。因みに、現在交通部が
「国道」と称しているのは、高速道路(「高速公路」)のことです。



西豊穣 ブログ「台湾古道〜台湾の原風景を求めて」
http://taiwan-kodou.seesaa.net


西豊穣 台湾紀行古道シリーズ バックナンバー

2006/11/19 恒春卑南古道(阿朗伊古道)−2


2006/09/30 恒春卑南古道(阿朗伊古道)−1
http://www.emaga.com/bn/?2006090110198233009044.3407

2006/07/05 六亀特別警備道付記‐竹子門発電所
http://www.emaga.com/bn/?2006070011116401005020.3407

2006/07/03 六亀特別警備道(扇平古道)
http://www.emaga.com/bn/?2006070005430276009918.3407

2006/03/06 浸水営古道
http://www.emaga.com/bn/?2006030022994333010714.3407

2005/12/23 崑崙拗古道
http://www.emaga.com/bn/?2005120083972080008877.3407

2005/04/26 八通関古道
http://www.emaga.com/bn/?2005040084791224010815.3407

2005/02/25 霞喀羅古道(石鹿古道)
http://www.emaga.com/bn/?2005020083026676007324.3407

2005/01/06 能高越嶺古道
http://www.emaga.com/bn/?2005010010046551008909.3407
  

『台湾の声』 http://www.emaga.com/info/3407.html

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